忠海の歴史

忠海(ただのうみ)

忠海(ただのうみ)は、広島県 瀬戸内海のほぼ中央に位置する町です。
古来、国内はもとより大陸とも盛んに交易が行われ藝豫海峡の海運の要でした。

平安時代(1129頃)、平忠盛がこの地を平定しました。

平 忠盛(1096~1153)

忠盛は、当時「乃美の浦(のうみのうら)」と呼ばれたこの地を自らの御名から一文字とり「忠海(ただのうみ)」とし、海を挟んで、向いの愛媛県大三島の港を「盛(さかり)」と名付けました。

町の歴史は古く、古来からの風習、祭礼等が現在も数多く残っております。

室町時代、康応元年(1389)3月20日
足利義満(室町幕府三代将軍)は、厳島への参詣の途中、忠海付近の州に舟を乗り上げ、忠海で潮の満ちるのを待ちました。

「うきねする沖津とまりをいそげとや あけぬ夜潮に船のおくらん」 足利義満

足利義満(1358~1408)

「御舟を州に押掛てゆかざりければ、
はし舟をめして、
ただのうみ(忠海)の浦といふ所のいそぎは(磯際)かに、
あしふける小屋にやどらせ給ひける程に、
しほ満来り御舟とまゐれり、
又めしてこがせ給ふ」
「鹿苑寺院殿厳島詣記」 より

室町時代、忠海は、内陸の物資積出港として栄えました。
藤原北家中御門流の公家 壬生家の文書に
壬生晴富(管長者殿)宛、小早川元平の書状が残っています。
当時、壬生家は 主殿寮領入江保(安芸高田市吉田町)を領有としていました。
その年貢は、小早川家の領地 忠海 で船に積まれ、京まで届けられたそうです。

「御年貢運送事、
是又同名の者領中忠海と申す浦より舟出候間、
彼方へ御出候はば安かるべく候」
「壬生家文書」 文明17年(1485)3月28日付 より

小早川家に、当時の借用書が残っています。

継目安堵御判札銭以下支配状写
「参貫文(約21万円位)
是は返弁仕り候、
忠海二郎右衛門方より借銭」
~ 「小早川家証文」文明19年(1487)8月2日付 より

忠海二郎右衛門 は「問丸(といまる)」と呼ばれる、港湾における荷物の保管、輸送、商品取次を行う業者です。

浦兵衛亟宗勝公(1527~1592)

戦国時代、忠海(ただのうみ)は 毛利家 小早川水軍の将、浦宗勝(乃美宗勝)の城下となりました。

浦氏は、小早川氏の一族です。
「宣平七男 浦佐衛門太郎氏実 安藝國豊田郡浦ノ郷に住居、浦氏始祖成」

宗勝公は、瀬戸内海を一望出来る、町の西海岸、床浦の山上に城を築きました。
忠海城はその鍵型の形状から、 賀儀城(かぎじょう)と呼ばれました。

賀儀城 本丸図

関ヶ原の合戦の後、慶長6年(1601)福島正則が所領します。
その後、元和5年(1619)浅野長晟が広島城に入城。
浅野氏の治下となりました。

寛永9年(1632)浅野家は浅野因幡守長治に三次藩を分国。
長治公は、 納米積舟の港として忠海を封地し浅野三次藩の所領としました。
町奉行 町役人を定め 町の市区を整理改正、浅野藩の米蔵 御用港とします。
藩の貢米収納事は、浦辺蔵奉行が米蔵算用役、勘定所番組とこれにあたりました。

寛文年間 本陣図(御馬屋町付近)

東船入堀築調もこの時着工され、忠海の内堀港湾は大規模に整備されました。
また、長治公は、 寛文3年(1663) 三次岩上にあった弁財天を勧請。
港の守護神として、内堀に築地神社(現・忠海弁財天神社)を建立します。
享保5年(1720)広島の浅野本家へ還付されるまで、忠海は三次藩唯一つの港でした。

忠海は、国内はもとより、大陸とも盛んに交易が行われ 芸豫海峡の海運の要でした。
弊店向かいのお寺、誓念寺(せいねんじ)は 通信使の宿泊所となっておりました。
山門の扁額は朝鮮通信使の書と伝えられます。

文政2年(1819)伊豫松山11代 松平定通 は、忠海の床浦神社に石灯籠1対を奉納しています。
芸州浅野の御用港でありながら、隣国の藩主からも寄進がなされる様子からも当時の盛んな交易の様子が伺えます。

平賀晋民は、江戸時代の経学者です。
頼春水、菅茶山は、平賀晋民の元で学びました。
大儒者 平賀晋民

「晋民無ければ即春水無く、春水無ければ即山陽無し」永井潜

大正公園、賀儀城跡山麓(忠海西小学校校庭)に記念碑がございます。
昭和六年(1931)十一月 建碑。

頼春水 揮毫。
池田徳太郎は、幕末、明治維新に活躍した偉人です。
維新の志士 池田徳太郎

池田徳太郎 いけだとくたろう(池田種徳・池田快堂)

忠海開発八幡神社 境内に記念碑があります。
昭和11年5月31日に除幕式が行われました。
「池田は雪中の筍(たけのこ)であって、
其の學徳を隠さるれば隠さるゝ程顕(あらは)れて來る。
私も池田氏に頗(すこぶ)る私淑して止まない。」
山岡鉄舟
参考資料

「忠海案内」忠海商工會 昭和10年発刊
「経学者平賀晋民先生」文学博士高楠順次郎 閲 澤井常四郎 著 昭和5年発刊
「維新志士 池田徳太郎」澤井常四郎 著 昭和9年発刊
「維新秘話」昭和11年発刊
「石塔から読み解く忠海の中世 ー 舘鼻 誠(専修大学)’08 12月21日講演」
忠海歴史研究会 講演 資料
「藝藩通志」頼杏坪 編纂 文政8年